第五章 図画工作学習結果の考査
一 考 査 の 目 的
学習結果の考査が,なんのためになされるかについては,一般編第五章に述べたが,要は,
(二) 指導の方法は適切であったかどうかの吟味。
の二点にある。したがって,これまで行っていたいわゆる成績考査とは違った意味を持っている。
二 知識教材の学習結果の考査方法
知識教材の考査方法は,一般編第五章「二 いかにして考査をするか」中の「(一)知識と考え方の考査」中に示した。
(2) 分析的な考査法
再生法
選択法
真偽法
組み合わせ法
記録法
図解法
B 考え方の理解をしらべる方法
完成法
訂正法
作文法
配列法
判定法
をそれぞれの教材の特質に応じて適用する。
三 表現技能の学習結果の考査方法
技能の考査については,一般編第五章に
(二) 記述尺度法(分析的な方法)
の二つが挙げてあるが,この両方法とも,図画工作における技能調査に用いることができる。この両方法とも結局考査者の主観によって評定されるもので,客観的な基準は今のところきまっていない。
一対比較法は,これまでの成績考査にも多く用いられていたが,この方法は総合的な方法であるだけに,考査者の主観に左右せられる点がはなはだ多い。たとえば低学年で記憶想像によって一枚の絵をかかせたとする。その結果は
着想の豊富さ。
観察の程度。
形の適否。
色のよさ,豊富さ。
画面全体の動き。
といったように多くの面から見なければならないが,考査者が異なるにしたがって,それぞれ別の面をみるため,一枚の作品に対しても,非常にちがった評価をしがちである。
記述尺度法によると,みるべき面がきまっており,また各面をみる尺度もだいたいきまっているのであるから,ある一方にのみ偏した見方をすることはなくなるが,各面をみる尺度のあて方は,やはり主観によるのであるから,考査者は常に主観的に持っている尺度が,適当であるかどうかの反省をしなければならない。そのためには,次のような研究をすることをすすめる。
適当数の考査者を集める。
まず一対比較法によって各考査者別々に各作品の優劣を評定し,それを記録しておく。次に考査者全員の合議によって,記述尺度を決定する。
その記述尺度によって,各考査者別々に各作品を評価し,それを記録しておく。
全考査者の評価を図表にして発表する。
評価の不一致について研究討論する。
かくして各考査者は,自己の見方のくせを知り是正に努める。
また,常に同しグループのみでかかる研究をしていたのでは,そのグループの偏見ができるおそれがあるから,他のグループとの共同研究をする必要も起るであろう。
以上,技能考査のだいたいについて述べたのであるが,考査はつねに各単元の指導目標に即して行われなければならない。したがって記述尺度をきめるにしても,その指導目標にしたがってきめなければならない。
技能熟練の考査に関しては,一般編第五章に述べたところにより,図画工作に適した方法をえらぶ。
四 鑑賞力の考査方法
鑑賞学習結果の考査方法については,一般編第五章に
(二) 順位評価法,
の二つがあげてある。児童の鑑賞能力の発達に応じ適当な種類の作品を選び,また作品の価値の開きをかげんして実施するのである。なお作品から受ける感じを調べる方法が,一般編第五章に音楽を例にとって述べてあるが,この方法は図画工作にも適用できるよい方法である。
以上のほか,作品をみて,その感じを自由に話させて鑑賞力を知る方法もあるが,作品を見て感得した感銘には,言語や文章では現わされないものがあり,またこれを言語や文章に現わすようなことを多くすると,感銘をうける感受性を強くするよりも,ことばを貯えて,ことばのものさしで作品を見る風を作るおそれもある。
五 態度の考査方法
図画工作においても,手まめに働く態度,誠実に仕事をする態度,ともに働きともに楽しむ態度などを養わなければならないが,そういう態度の考査は一般編第五章に述べてあるところを参考として適当な記述尺度を作って考査してもらいたい。
六 そ の 他 の 問 題
以上述べたことのほか,
眼や手の感覚
美的情操
その他の学習結果を考査しなければならない方面は多い。これらの方面の考査には上述の方法を十分研究し工夫して適用してもらいたい。なお技能に関する方面の考査法は知識に関する方面の考査法より発達が遅れている。今後実際家の研究をまって有用な方法を樹立して行きたい。本書には一単元ごとに考査法を記したが,工夫すれば,本書に挙げた以外の方法も採用できる。また記述尺度は単なる一例を示しただけであるから,同種の教材については前後の学年のものを対照することなどにより工夫活用してもらいたい。