第四章 図画工作の学習指導法
一 図画工作学習の三つの方面
図画工作の学習には,表現の学習,鑑賞の学習及びこの両者に関連のある知識の学習の三つの方面がある。
表現の学習には,その表現する内容を内に貯える学習と,これを表現する技術の学習との両方面がある。
表現する内容を内に貯えるためには,他のあらゆる学科の学習をはじめ,遊戯,その他すべての生活経験がみな有用な働きをするものであるが,更に図画工作独自の立場から,自然や人工物を観察し,理解する学習をすることによって達せられる。また工芸品や美術品を鑑賞することも,表現内容を拡める上に大いに役だつ。
内に貯えた表現内容を具体的に表現するには,表現材料を使いこなすこと。表現の方法を体得し,意志の命ずるままに手が働くことなどの学習をしなければならない。なお表現という意味は,単に絵や図をかいたり,立体的なものを作るというようなことだけに限らないで,室の飾りつけをしたり,物の配置や整とんをしたり,いろいろな設備や備品を使ったりすることを含めた広い意味に解したい。
鑑賞の学習には,日常われわれの用いている工芸品を選択し評価して,その賢明な使用者となる能力を習得することや,美術品を見て,それに没入し,豊かな情操を養うことなどを含む。
図画工作において学習すべき知識には,色に関するもの,形に関するもの,構図法その他の描写に関するもの,用具・材料に関するもの,工作法に関するものなどいろいろある。これらの中には,単独に知識として学習すべきものもあるが表現・鑑賞と一体として学習するものが多い。
二 学習指導の意味
学習の指導は表現力や鑑賞力を体得して行く生徒児童の活動に対して,じゃまになるものを取り除いたり,適当な補助を与えたりすることである。そして生徒児童の学習活動の強弱は,生徒児童の興味に左右されたり,或はみずから学ぶ必要を感じる程度や,学ぼうとする彼等の意欲に左右される。またそれとともに教材や,児童の物的及び社会的環境にも左右されるのであるから,教材を含めてよい環境をつくることが指導の先決問題となる。
三 図画工作の学習の進み方
図画工作の学習において,表現技術の形態なり,工芸品や美術品の見方の形態なりを形作って行く場合のその進み方は,一つの斜面をのぼって行くような進み方をするものではなくて,何か一つのきっかけによって,一つの技術を会得すると,ある期間,その同じ水準のところを進み続け,そこへなんらかの刺激を受けたり,きっかけを得たりすると一段上に上がり,そしてまた同じ水準のところをしばらく歩み続ける。というように段階的に進んで行く。このことは,児童の学習の進み方を少し注意して観察するとわかることであるが,しかし,その進み方の形態のこまかな点や,どういう刺激やきっかけによって一段ずつ上がって行くかということになると,まだ,十分な研究がなされていない。ことに鑑賞方面の学習については,ほとんどその研究がなされていない。それはこれから,心理学者や教育学者の協力を得て実際家諸氏の手によって研究されなければならない問題である。
この段階的に学習が進んで行くという事実は,学習指導上,かなり重要な問題で,同じ水準のところを歩んで行く間には,生徒児童はどういう活動をしたらよいか。一段,段を上がるきっかけは,どうして作られるかをよくつかまないと,学習活動がむだになる。とにかくあるきっかけによって,児童がある表現力なりある鑑賞力なりを,心か,からだのどこかに記録する。そうなるとしばらくは,その記録された能力を使い,更にそれの練習を重ねているが,やがて機が熟して,新たなきっかけを得てまた新しい表現力なり,鑑賞力なりが心か,からだのどこかに記録される。こういう記録が積もり積もって,表現の学習,鑑賞の学習が漸次形づくられて行き,なんらかの必要に応じてその力を発揮できるようになるのが図画工作学習の進み方である。
四 表現の学習指導─生徒児童の活動
表現の学習をする場合の生徒児童の活動は大要次のごとくである。
学習は請負仕事ではないから,生徒児童は自分の目標に向つて,みずから進むのでなければならない。これまで図画工作の学習指導には,自由選題法と課題法とが行われた。自由選題法は,児童自身が題目を選ぶのであるから,目的も児童自身が選ぶことになるが,課題法は教師が題目を与えるのであるから,目的も教師が与えることになるわけである。したがって自由選題法では,生徒児童が自分の目的に向かって進む傾向が強く,課題法ではこれに及ばないはずである。しかし指導のない自由選題法では生徒児童が目的意識を確立するとは限らないし,課題法によっても,指導の仕方によっては,強い目的意識を持つようになる。どの方法をとるかは場合によるのであるが,要は生徒児童が自分の目的として表現に当たり,学習が生徒児童自身の目的活動になればよいのである。
図画工作における表現学習が,目的活動になり,生徒児童が盛んに学習活動を営むようになるためには,表現意欲が高まらなければならない。表現意欲が高まるために必要な生徒児童の活動としては,
2.掛け図,標本その他の参考品を見ること。
3.たがいに表現の経験などを話しあうこと。
4.遊戯・遠足・見学その他生活体験を豊富にすること。
等が考えられる。
表現目的がきまれば,その目的を達成するための計画を立てなければならない。この計画は目的を達成できるかいなかを決するものであるから重要である。計画の立て方は,教材によって異なるが,計画項目の重要なものは,
2.参考資料を集めること。
3.全体の企画を立てたり,物によっては設計図をかくこと。
4.必要な材料・用具を集めること。
5.表現の順序方法を考えること。
等で,表現するものによって適当に計画項目がきめられなければならない。
この計画の段階で最も重要なことは,創意工夫を十分働かせることである。創意工夫は,目的を立てる段階でも必要であり,次の実行の段階でも必要であるが,この計画の段階では,最もそれを必要とする。
表現の計画がきまれば,表現を実行する段階になるのであるが,この段階では,つねに目的を考え合わせ,忠実に計画に従うことが必要である。また,実行の途中でも,その実行に即して部分的な計画を立てなければならないことも起る。
計画ができれば,その計画がはたして目的にかなっているかどうかの反省が必要であり,実行の段階が終って,表現が完成すれば,計画どおりに実行できたかどうかの反省が必要であり,更に実行を通して計画が適当であったかどうか,また,最初に選んだ目的が適当であったがどうかを反省しなければならない。
また,生徒児童相互に表現の結果の批判したり,それについて話しあいをしたりすることも必要である。
以上は表現に関して具体的に指導法──生徒児童の活動を考えて行く筋道を述べたのである。
五 知識及び鑑賞学習の指導──生徒児童の活動
知識の指導については,知識的な教科の指導に準ずればよい。
鑑賞方面の生徒児童の活動については,まだ定説を得るに至っていないが,
2.作品を味わう。工芸品などは実際にそれを使ってみる。
3.鑑賞の結果の感想を述べる。
4.その感想について討論する。
等が考えられる。この活動を喚起しまた効果あらしめるためには鑑賞しようとする気持を起させること,鑑賞に適する態度に導くことがたいせつである。