第十章 第五学年の図画工作指導
注意 第五学年では指導の単元が増大して,ここに採用したものだけでも,十四項目ある。これらはいずれも,その程度においても,教育的価値においても,この学年の児童に課すに適したものであるが,これを全部一様に課しては,どの項目も浅くなり,徹底をかくおそれがある。実際指導に当っては,児童の能力や,土地の情況・学校の設備等を考慮して,適宜これらの項目に軽重をつけて実施しなければならない。
いま少し具体的な例についてこのことを説明すれば,「粘土による表現」の如きは,これまで,第五学年以上には採用されていなかったものであるが,粘土による表現そのものは,極めて小さい児童から,ずっと進んだ専門の域にまで,どの程度の者にも,適する教材が極めて豊富にあり,しかもその価値は,彫塑的のものは描画に匹敵する価値を持っており,やきもののような工芸的なものは,他の工芸的なものに匹敵する価値を持っている。しかも児童の興味という点から見ても,決して他の教材に劣ってはいないのである。しかるにこれまで粘土による表現が,第五学年以上の学学年で採用されなかったのは,価値が無いからではなくて,あまり多くの項目を課しては,どれもこれも不徹底に終ることを恐れて,惜しみながら割愛したのである。しかしながら,土地の状況や,児童の学習状態如何によっては,これを採用し,他を割愛することも,あってしかるべきであるから,ここには採用しておいたのである。
また,木竹工と金工とを共に採用しているが,両者とも,この程度の児童に適した教材を持っており,また児童の日常生活にも関係の深いものであるから,一方をとり地方を捨てるという理由は成立しない。しかし実際に指導して行く場合,両方に平等な力を用いたのでは,どちらも満足な指導ができないというならば,この学年では,どちらか一方に重点をおくような取扱いをしてもよい訳である。
また,糸布のさいくの如きは主として女児にやらせ,男児には,その間他の教材を課すような扱いとしなければならないであろう。
以上は一二の例について,教材の取捨宜しきを得なければならないことを述べたのであるが,こういう取捨をするときには必ず児童の属している社会は何を要求しているか,児童は何に興味を持つかを考えてしなければならない。単なる教師の趣味や個人だけの見解によって教材の採否を決定することは,つつしまなければならない。
また,この学年から,各教材単元に対する,時間配当を示さないことにする。それは,ここに採用した十四項目の単元に,どのような軽重をつけるかということは,児童の状態と,土地の状況とによって異なるのであるから,時間配当は各指導者の研究にまかせた方がよいと思ったからである。時間の割合を,各指導者がきめる場合,第四学年まで参考として示しておいた割合や,従来国民学校で採用していた割合などは,一つの参考となるであろう。
(一) 指導目標
2.精密に描写する練習とともに,速写によって,要点をつかんでかく練習もさせる。
3.水絵具の特質を理解させ,その使用になれさせる。
(二) 教材例
花・木の葉・雑草・野菜・果物・器物・など。
2.風 景
3.建築物
4.動 物
こん虫・はく製の鳥獣または生きた鳥獣・など。
5.人 物
子供・大人・など。
(三) 描写材料
水絵具・鉛筆を主とする。
(四) 指導方法──児童の活動
2.水絵具の使い方を研究する。
(2) 紙の上へ塗り重ねていっていろいろな色を出す方法と,調色板の上で混ぜ合わして,自由に色を出す方法。
(3) 塗り分け式のかき方(調色板の上で適当な色を作って或る部分を塗り,その隣りの部分の色を,別に調色板の上で作って塗る。)と塗り重ね式のかき方(初めに薄い色を塗り,その上にまた色を塗り重ねて行くかき方。)
(4) 初めに塗った色がまだ乾かないうちに次の色を塗って,二つの色がにじみ合うのを利用するやり方と,初めの色が乾いてから,次の色を塗るやり方。
(5) 明かるい色を出す場合に,その色に水を入れて淡くして塗り,下の紙の地が塗った色を透して見えるために明るくみせるやり方と,その色に白を混ぜたり,その色より明るい色を混ぜたりして明かるくするやり方。
(6) 暗い色を出す場合には,その色より暗い色を混ぜる場合,その色に黒を混ぜる場合,その色と反対の色を混ぜる場合,その他いろいろなかき方を描く対象の如何によって研究し実習する。
(7) 水をこぼさないようにし,また机の上をよく整頓する。
注意 1.水絵具の使い方の指導として鉛筆淡彩からはいって行くやり方と,初めから水絵具ばかりでやって行くやり方とがあるが,鉛筆淡彩は必ずしもやさしい表現方法ではないから,水絵具の使い方になれさせる意味でやらせる場合には,特にかく対象の選び方や,表現様式の上の工夫をしなければならない。また初めから水絵具ばかりでやって行く方法をとる場合は,形が簡単で,少しくらい形がちがっても,あまり気にならないようなものを選んで描写させるがよい。
注意 2.水絵具による混色の練習は,「色」の教材と関連を保って指導する。なお,混色に関する理論は,相当むずかしいから,あまり理論にわたらず,実験をさせることによって現象として混色の事実をとらえさせるようにする。
(五) 結果の考査
「一対比較法」または「記述尺度法」によって考査する。
例 水絵具使用練習結果の考査「記述尺度」
発色の鮮明さ |
非常に鮮明 |
比較的鮮明 |
普 通 |
あまり鮮明でない |
濁 る |
混 色 |
非常にたくみ |
た く み |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
筆 使 い |
非常によい |
よ い |
普 通 |
わ る い |
非常にわるい |
用具・材料の扱い方 |
大いによい |
よ い |
普 通 |
わ る い |
たいへんわるい |
(一) 指導目標
2.構想にもとづく表現力を養う。
3.絵画的な表現と共に説明的な麦現を練習させる。
4.工夫考案の力を養う。
(二) 教材例
2.文章・物語・詩や歌などを絵画的に描写すること。
3.未来の住宅・未来の都市・機械化した室内等,児童の夢を説明図的に,または絵画的に表現すること。
(三) 描写材料
水絵具・鉛筆を主とし,毛筆・墨等を併せ用いる。
(四) 指導方法──児童の活動
(2) 題材がきまれば,それを表現するために必要な資料を写生したり,参考になる写真や絵画を集めたりする。例えば,「秋」という題で描こうとする場合,満山紅葉のさかんな色彩の交響によって秋を示そうとするものは,それに必要な資料を集め,また一本のすすきと,秋の虫とによって,秋のしめやかなさびしさを現わそうとするものは,それに必要な資料を集め,また,かき・くりのような,秋の味覚で現わそうとするものは,それに必要な資料を集める。
(3) 資料を集めながら,どんな構図で,どんな色調で表現するかを考え,全体の計画を立てて描写する。
(4) かき上がれば,自分が初めに出そうとした気持ちが出ているか,それに用いた資料は適当であったか,描写は適切でうまく行ったか等について反省し,また相互に批評し合う。
2.文章・物語・歌の文句などをかく場合。
(2) 必要な資料を集める。
(3) 如何に表現するかの想を練ってからかく。
(4) 描いた結果の反省・批評。
3.児童の夢を表現する場合。
(2) 選んだ題目について,更に各自で想を練り,参考資料を集めて,表現する。
(3) できた結果について,反省し,児童相互に批評し合う。
(五) 結果の考査
「一対比較法」または「記述尺度法」による。
例 作画の考査「記述尺度」
題材の選定 |
大いに適切 |
適 切 |
普 通 |
不 適 切 |
非常に不適切 |
資料の集め方 |
適切なものを非常に豊富に集める |
適切なものを豊富に集める |
普 通 |
適切なものをあまり集められない |
適切なものを集められない |
構 想 |
独創的でとらえ所がよい |
適 当 |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
表 現 |
目立ってたくみ |
た く み |
普 通 |
拙 い |
目立って拙い |
(一) 指導目標
2.形体に対する観察力を養う。
3.曲面の自由な表現練習をさせる。
4.創造力を養う。
5.眼と手を練らせる。
(二) 教材例
2.器物の写生または構想による表現。
3.建築物の構想による表現。
(三) 指導方法──児童の活動
2.参考や教師の模範を見たりして思い思いに自由に工夫して作る。
3.できた結果に対する反省・批評。
注意 1.写生のときの物の見方や,構想によるときの考え方などについては,個々の児童の実力や傾向に応じて適切な指導をする。
注意 2.この程度になると,一つのものを作るのに,数時間を要することもあるから,半製品を,かたまらないように保存する設備をして,でき上がるまでの保管を完全にするよう注意しなければならない。
(四) 結果の考査
「一対比較法」または次のような「記述尺度」による。
題材の選択 |
自分の力にぴったり合った適当なものを選ぶ |
自分の力に合った適当なものを選ぶ |
普 通 |
選択力が弱い |
適当なものが選べない |
観 察 |
非常に正しくて密 |
正しくて密 |
普 通 |
粗 雑 |
非常に粗雑 |
構 想 |
目立って創意に富み適当 |
創意に富み適当 |
普 通 |
創意に乏しく貧弱 |
目立って創意なく貧弱 |
表現技術 |
目立ってたくみ |
た く み |
普 通 |
拙 い |
目立って拙い |
(一) 指導目標
2.水絵具の混合によって,できるだけ多くの色を作らせる。
3.集めた色を,色相の類似と,明度の類似とによって整理させる。
4.水絵具及び混合板によって混色の実験をさせる。
5.色に対する興味を持たせ,色彩感覚を鋭敏にする。
6.図案の指導と連絡を保って,配色の練習をさせる。
(二) 指導方法──児童の活動
2.水絵具を単色で塗った色紙や,水絵具を混色して塗った色紙をなるべく多く作る。いろいろ塗っている間に,ちがった色のできたときは,相互に交換し合って多くの色を集める。
色紙を作るには,あまり狭い面積に塗ったのでは,むらができるから,むらのできない程度の広さを塗る。
3.集めた色は,第四学年で行った整理方法に準じ,更に工夫と改良とを加えて,色相と明度との類似にしたがって整理する。
4.絵具の混色のほかに,混色ごまや,回転板でも,混色の実験をし,混色によって,いくらでも多くの新しい色のできることをたしかめる。
注意 1.絵具による混色は,混色法の上からいえば減算混合となり,混色板による混色は,加算混合(明度を主とする混色の方から言えば中間混合)となるので,結果は非常にちがうのである。しかし児童にはまだそういうことを知らせる必要はないが,実験をしている間に,それに気のつく児童があったら,大いにその敏感を推賞し,将来混色の研究をする大切な手がかりとする。
注意 2.配色については,明度と色相とに注意して,図案の教材と連絡をとる。
(三) 結果の考査
下記のような「記述尺度」による。
感覚の考査は個々の色についても行う。
色の集め方 |
非常にたくさん集める |
たくさん集める |
普 通 |
集め方が少ない |
集め方が非常に少ない |
混 色 |
非常によい色を多く作る |
よい色を作る |
普 通 |
色が濁る |
非常に色が濁る |
整理の仕方 |
非常に系統だてて整理する |
系統を立てて整理する |
普 通 |
整理ができない |
ほとんど整理ができない |
色に対する感覚 |
非常に鋭敏 |
鋭 敏 |
普 通 |
鈍 感 |
非常に鈍感 |
(一) 指導目標
2.物の形の特徴を確実にとらえる能力を養う。
3.形に対する感覚を鋭敏にする。
(二) 指導方法──児童の活動
例えば,ビールびんは,下部は円柱,上部は細長い円すい,中間部は球の部分で,それらの組み合わせからできている。こまかに見れば,単純に三部分から成り立っているものではないが,大づかみにすればそうである。
2.二三の例で上のことが会得できれば,あとは分団で手近にある物を次々に持って来て研究する。
3.研究した結果は,簡単な側面図をかくか,スケッチをするかして,各部分の基本形の名をかき込んでおく。
(三) 結果の考査
次のような「記述尺度」による。
形に対する理解 |
非常によく形を分解的に見ることができる |
よく形を分解的に見ることができる |
普 通 |
形を分解的に見る力が劣る |
形を分解的に見ることができない |
研究対象のとらえ方 |
適切なものを非常によくとらえる |
適切なものをよくとらえる |
普 通 |
どんなものを研究してよいかよくは解らない |
どんなものを研究してよいか解らない |
研究に対する熱意 |
非常にたくさん研究した |
たくさん研究した |
普 通 |
あまり研究しない |
ほとんど研究しない |
単元六 図 案
(一) 指導目標
2.色の教材と連絡を保って配色の練習をさせる。
3.工夫考案の力を養う。
4.装飾の才能を養う。
(二) 教材例
防火ポスター・運動会のポスター・展覧会のポスター・学芸会のポスター・保健衛生のポスター・交通道徳のポスター・など。
2.表 紙
文集の表紙・学習帖の表紙・日記の表紙。
3.服飾品の装飾
エプロンの装飾(アップリケの図案)その他服飾品の縫い取り・ししゅうなどの図案。
4.家庭用品
障子やふすまの切りばりの図案・クッション・座ぶとん・うちわ・盆・など。
(三) 用具・材料
水絵具・色紙・クレヨン・定木・ものさし・コンパス・など。
(四) 指導方法──児童の活動
2.計画を立てて表現する。どんな資料を用い。どんな組み立て方にし,どんな配色にするかについて案を立て,草案を作ってみて,更に案を練り,物によっては,そのまま実材に移して製作し,物によっては,絵具・クレヨン・色紙などで表現する。
3.表現の結果について反省し,またお互いに批評し合う。
注意 ポスターなどは,学校や家庭や社会の実用に供するものを作る。表紙などは自分で使うものや,学級用のものを作る。服飾品の装飾などは,家庭科と連絡をとって,自分が使うものや,家庭で母・姉等がその図案を使ってくれるようなものを作る。障子やふすまの切りばり図案のようなものは,実際にその必要のあるとき作り,うちわなどは,古うちわをはりかえてその模様をかくときに作り,その他家庭用品は,新しく作ったり,修理をしたりするときの図案を作る。
(五) 結果の考査
次のような「記述尺度」による。
適当な題目を見つけ出す力 |
適当な題目を非常によく見つけ出す |
大体適当な題目を見つけ出す |
普 通 |
題目を見つけ出す力に乏しい |
題目を見つけ出す力がほとんどない |
図案の構成 |
非常に独創的で巧み |
独創的でたくみ |
普 通 |
創意が乏しくて拙い |
非常に創意に乏しくて拙い |
表現技術 |
非常に手ぎわがよい |
手ぎわがよい |
普 通 |
不手ぎわ |
非常に不手ぎわ |
(一) 指導目潔
2.読図力を養う。
3.正確に作図する習慣を養う。
(二) 教 材
木工教材で作る簡単な形のものの製図からはいり,身ぢかにある簡単な形をしたものの実測製図にも進ませる。
方眼紙に,三角定木・ものさし・コンパスなどを用いて製図させると共に,手がきの製図もさせる。
(三) 指導方法──児童の活動
2.平面図・立面図・側面図の関係,寸法記入の方法,見えるりようと見えないりようとの現わし方などを研究する。
普通の写生風にかいたのではどんな不便があるか,(角度や寸法が正確にわからない。)物の幅と長さとの関係を正確に現わすには,どうすればよいか(ま上から見た図がよい。)物の高さと長さとの関係を正確に現わすには,どうすればよいか(真正面から見た図がよい。)など,また一つのものを現わすのに平面図と立面図,立面図と側面図,平面図と立面図と側面図というように,二つまたは三つの図を要することや,各図の位置関係などを実例について研究する。
3.製図の実習をする。実習の方法として方眼紙に描いてある投影図を,そのとおりに方眼紙にかくこともあり,簡単な実物の寸法を実測して,それを投影図でかくこともある。後の場合ははじめに手がきの図をかき,ついで定木を使ってかく。また別に,手がきの図をかく練習もする。
4.できた図の正否や確・不確を,自分でも検査し,相互に交換しても検査する。
5.描図に伴う用具の使い方を研究する。
(四) 結果の考査
下記のような「記述尺度」による。
図法の理解 |
非常によく理解する |
よく理解する |
普 通 |
理解が乏しい |
解らない |
描図の速度 |
極めて速い |
速 い |
普 通 |
遅 い |
極めて遅い |
図の正確度 |
極めて正確 |
正 確 |
普 通 |
不 正 確 |
極めて不正確 |
図法の理解のみの考査をするには,どこかに誤りのある図を示して,正誤を判断させる「訂正法」を用いてもよい。
(一) 指導目標
2.木材の性質を利用して,役に立つものや美しいものを作る能力を養う。
3.自分に必要なものは,自分で作りまた処理する態度を養う。
4.創造力を養う。
5.眼と手を練らせる。
(二) 教材例
のこぎりの使い方・かんなの使い方・のみの使い方・木材の接合法・木材による組み立て方・など。
2.実用品
土びん敷き・衣紋掛け・台類・手さげの口木・本立て・ブックエンド・状さし,などのような簡単なもの。
3.遊具類
舟・簡単な楽器・ピンポンバット・羽子板・トロッコ・ローラースケート,などのようなもの。
4.模 型
家屋の模型・交通機関の模型(これは遊具と区別のつかないものとなる。)機械や機構の模型,など。
5.木製品の小修理。
(三) 用具・材料
普通の木工具(のこぎり・かんな・尾入れのみ・きり・小刀・スコヤ・けびき・ものさし・など。)
製図用具(三角定木・コンパス・など。)
2.材 料
木材(ほう・かつら・せん・しおじ・すぎ・まつ・ひのき・など。)
釘(鉄くぎ・木くぎ・竹くぎ・その他。)
膠着剤・塗装材料。
(四) 指導方法──児童の活動
先ず基本的なことから,応用的なことに進む方法。
はじめから応用的なことをやりながら,基本的な練習を折り込む方法。
前二者の折衷。
の三つの方法のどれかによる。そのどれによるかは,児童の状態,学校で準備できる参考品・材料・設備等の如何によってきまる。
2.製作題目は個人個人できめるか,分団別,または学級全体で相談してきめるかする。しかし教師が定めた題目によって製作することもある。
作る題目は,自分に直接役に立つもの,家庭で直接に役に立つもの,他の学科の勉強に必要なもの,及び学校で必要なものから選び,すぐ使わないでしまっておくようなものは,なるべく作らない。
3.製作題目が決定すれば,どんな材料で,どんな形に,どんな方法で作るかの計画を立てる。設計は,なるべく方眼紙を用いて投影図でかく。
4.できた結果について,目的通りできて役に立ったか,丈夫にできたか,美しいかなどについて反省し,また相互に批評し合う。
5.よく考えて設計し,ていねい誠実に作り,作ったものは十分に味わい。また使って見て訂正するというように,心ゆくまで追及的・研究的に作る。したがって必ずしも数の多いことを望まない。
6.工具の使用法を研究して,ていねいに使い,手入れをよくして大切に保存する。
7.材料の性質,木製品の性質,木製品の使い方や保存法を研究する。
8.木製品の美しさについて話し合う。
注意 かんなで板や柱を削ること,のこぎりでまっすぐに木をひくことなどは,児童にとってはかなり困難な仕事で,しかも,木工の仕事の大半は,かんなで削ることであるから,この仕事をなるべく軽減して,設計や,装飾に力を使い,役に立つものをなるべく簡単に作り得るように工夫してやることが必要である。そのためには,合板を多く使ったり,8mm,10mm,12mm,15mmなどにすでに削ってある材料を使うとか,のこぎりびきなどは,適当な治具を作って,思う角度に正確に切れるようにするとかの工夫により,製作に対する抵抗を少なくすることが必要である。こういう点に対しても,実際家や,工具・材料の供給者の研究を望む次第である。
(五) 結果の考査
「一対比較法」によりまた次のような「記述尺度」を参考として,教材の性質如何によって,適当な尺度を作って考査する。
題目の選定 |
自分の力に合い役に立つ適当な題目を選ぶ |
ほぼ適当な題目を選ぶ |
普 通 |
題目を選ぶ力が劣る |
題目を選ぶ力が大変劣る |
製作計画 |
非常に独創的で周到 |
創意あり周到 |
普 通 |
創意乏しく粗雑 |
創意なく非常に粗雑 |
製作技術 |
非常にたくみ |
た く み |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
工具・材料の扱い方 |
材料の扱い方非常に適当でよく工具の手入れをする |
材料の扱い方適当で工具の手入れもよくする |
普 通 |
材料の扱い方が拙く,工具もあまり大切にしない |
材料の扱い方が非常に拙く工具をなげやりにする |
(一) 指導目標
2.針金・板金の性質と用途とを体得させる。
3.創造力を養う。
4.眼と手を練らせる。
(二) 教材例
針金のかぎ・安全ピン・くさり・金あみ・板金の筆洗・じょうご・ちりとりなどのようなもの。
2.遊 具
針金・板金で作る各種の遊具。
3.模 型
4.針金・板金製品の小修理。
(三) 用具・材料
喰切・ヤットコ・ペンチ・やすり・金切りはさみ・け書き針・コンパス・木づち・木台・打ち木・はんだごて・など。
2.材 料
各種の針金・板金・はんだろう・など。
(四) 指導方法──児童の活動
2.実際の品物,参考図・写真・標本などを見て,実際の役に立つもの,または遊具などで,針金や板金を使って,自分で作れそうなものはないかを調べ,各自の任意か合議かで製作題目をきめる。
3.適当な題目がみつかったなら,先ずそれを作る。そして必要に応じ,針金の切り方・曲げ方,板金の切り方・曲げ方,半田のつけ方などを研究し練習する。
4.板金で作るものは,いちおう中厚紙などで,模型を作ってみることもある。
5.針金や板金製の小修理も個人または共同でやってみる。
6.製作に対する反省・相互批評。
注意 板金を扱うときは,けがをすることが多いから,絶えず注意しなければならない。
(五) 結果の考査
「一対比較法」また次のような「記述尺度」による。
製作題目の選定 |
非常によく適当なものを選ぶ |
よく適当なものを選ぶ |
普 通 |
あまり適当なものが選べない |
自分では選べない |
製作計画 |
極めて独創的で周到 |
独創的で創意あり周到 |
普 通 |
創意乏しく粗雑 |
極めて創意なく非常に粗雑 |
製作技術 |
非常にたくみ |
た く み |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
(一) 指導目標
2.糸や布で役に立つものや美しいものを作る能力を養う。
3.自分に必要なものは,自分で作り,また処理する態度を養う。
4.創造力を養う。
5.装飾の才能と美的趣味性養う。
6.眼と手を練らせる。
注意 糸・布のさいくは,主として女児に課されるものではあるが,男児でも,実際生活上心得ている方が便利なことが多いから,多少は課した方がよいであろう。
(二) 教 材
女児には,編み物の初歩,やさしい袋物,簡単な縫いとりやししゅう。その他飾りに使う造花,縫いぐるみ人形,動物のおもちゃなどの中から,土地の状況と,児童の希望により,適宜に採用する。
男児には,ボタンつけ,名札つけ,くつ下の修理,その他一針ぬきの縫い方で作れる簡単な必要品などの中から,児童の生活上必要な教材をとる。
(三) 指導方法──児童の活動
児童の活動は,題目の決定・立案計画・製作・反省・批評等他の製作教材に準ずる。
注意2.どういう製作教材についてもいえることであるが,特に編み物のようなものは,はじめに正しい編み方を学ばせないと,悪いくせができて,なおりにくいから,基礎の編み方をしっかり指導し,応用は自由にやらせるようにする。
注意3.男児に対しては,糸や布を使う必要を児童が感じたとき,その扱い方を指導する。また,他の人の手を借りなくても,自分でできる仕事を,つとめて発見するように指導する。
(四) 結果の考査
「一対比較法」により,また次のような「記述尺度」による。
材料の利用 |
非常にうまい |
う ま い |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
手 ぎ わ |
非常によい |
よ い |
普 通 |
拙 い |
非常に拙い |
美的趣味性 |
極めて高い |
高 い |
普 通 |
低 い |
極めて低い |
工夫創作力 |
目立ってよく工夫する |
よく工夫する |
普 通 |
工夫しない |
目立って工夫しない |
(一) 指導目標
第三四学年に準じ程度を高める。
(二) 指導方法──児童の活動
2.集めた材料の使い途を,共同で研究する。
3.新しい使い途に気づけば,どの廃品や新しい材料を,どう使ってどんな形状・構造に作るかの計画を立てて,製作する。
4.家庭にあった廃品を使うようなときは,個人個人別々のものを作る場合が多いが,利用法は共同で研究することもある。その地方にある新しい材料を用いる場合は,多く共同研究による。
注意 こういう仕事は一二回やったというだけでは効果が少ない。継続している間にこういう仕事に適する心の態度もでき,追及的な興味も起ってくるものである。
(三) 結果の考査
第四学年に準じて行う。
(一) 指導目標
第二三四学年に準じ程度を高める。
(二) 指導方法──児童の活動
第四学年に準ずる。
(三) 結果の考査
第四学年に準じて行う。
(一) 指導目標
2.工具や備品を,良好な状態に保持する力を養う。
3.工具や備品の,良否を判断する力を養う。
(二) 教材例
ものさし・各種のはさみ・各種の小刀・各種のきり・各種ののこぎり・かんな・各種ののみ・くぎ抜き・かじや・ヤットコ・ペンチ・くい切り・木づち・各種の金づち・ねじまわし・スパナ・半田ごて・各種の定木類・など。
2.家庭用具
さしこみ錠・水道の蛇口のせん・せん抜き・つめ切り・かんきり・ガスこんろ・電燈の部品・電熱器・電気アイロン・電気ごて・電鈴・肉ひき機・バリカン・その他普通の家具類。
3.簡単な機械類
べンチグラインダー・ハンドドリル・糸のこぎり機・裁縫ミシン,などのようなもの。
(三) 指導方法──児童の活動
2.その他の器具については,各自の必要から意見を出し,題目をきめて研究する。例えば,かんきりを研究することにきまれば,家庭にあるかんきりを持ち寄って,どんな種類のものがあるか,どういうものが便利か,かんきりも一種の刀物であるから,切れなくなればとがなくてはならないが,とぐにはどうすればよいか,またねじ止めになっているものはねじがよくきいているか,もし破損しているならば,なぜこわれたかなどの研究をし,手入れや保存法も研究し,簡単な修理もする。こういうようにして身辺にあるいろいろな工具・器具・備品を研究する。
3.研究は,物によって,個人的にしたり,分団的にしたり,一斉的にしたりする。
注意 理科,家庭科・社会科と一体として指導することもある。
(四) 結果の考査
次のような「記述尺度」によって考査する。
工具・備品の性質の理解 |
非常によく理解する |
理解する |
普 通 |
あまり理解しない |
理解しない |
工具・備品の扱い方 |
極めてたくみ |
ていねいでたくみ |
普 通 |
そまつに扱う |
乱暴に扱う |
(一) 指導目標
第三四学年に準じ程度を高める。
(二) 指導方法──児童の活動
2.美術工芸品や,美術品などで実物を見ることのできないものは,写真や複製品により,その見どころを研究したり,作者の略伝や,名作についての物語を調べさせたりして,その作品を味わい,それについての感想を述べたり,討論したりする。
3.つとめて,展覧会や,価値の高い建築物などを見学し,個人の所蔵品も,虫ぼしなどのとき見せて貰う。
4.できれば,掛け物や額などを見るときの作法や,その扱い方なども実習する。
(三) 結果の考査
「並立比較法」「順位評価法」などを,鑑賞する物に応じて適宜採用する。