第十章 第五学年の図画工作指導

 

 注意 第五学年では指導の単元が増大して,ここに採用したものだけでも,十四項目ある。これらはいずれも,その程度においても,教育的価値においても,この学年の児童に課すに適したものであるが,これを全部一様に課しては,どの項目も浅くなり,徹底をかくおそれがある。実際指導に当っては,児童の能力や,土地の情況・学校の設備等を考慮して,適宜これらの項目に軽重をつけて実施しなければならない。

 いま少し具体的な例についてこのことを説明すれば,「粘土による表現」の如きは,これまで,第五学年以上には採用されていなかったものであるが,粘土による表現そのものは,極めて小さい児童から,ずっと進んだ専門の域にまで,どの程度の者にも,適する教材が極めて豊富にあり,しかもその価値は,彫塑的のものは描画に匹敵する価値を持っており,やきもののような工芸的なものは,他の工芸的なものに匹敵する価値を持っている。しかも児童の興味という点から見ても,決して他の教材に劣ってはいないのである。しかるにこれまで粘土による表現が,第五学年以上の学学年で採用されなかったのは,価値が無いからではなくて,あまり多くの項目を課しては,どれもこれも不徹底に終ることを恐れて,惜しみながら割愛したのである。しかしながら,土地の状況や,児童の学習状態如何によっては,これを採用し,他を割愛することも,あってしかるべきであるから,ここには採用しておいたのである。

 また,木竹工と金工とを共に採用しているが,両者とも,この程度の児童に適した教材を持っており,また児童の日常生活にも関係の深いものであるから,一方をとり地方を捨てるという理由は成立しない。しかし実際に指導して行く場合,両方に平等な力を用いたのでは,どちらも満足な指導ができないというならば,この学年では,どちらか一方に重点をおくような取扱いをしてもよい訳である。

 また,糸布のさいくの如きは主として女児にやらせ,男児には,その間他の教材を課すような扱いとしなければならないであろう。

 以上は一二の例について,教材の取捨宜しきを得なければならないことを述べたのであるが,こういう取捨をするときには必ず児童の属している社会は何を要求しているか,児童は何に興味を持つかを考えてしなければならない。単なる教師の趣味や個人だけの見解によって教材の採否を決定することは,つつしまなければならない。

 また,この学年から,各教材単元に対する,時間配当を示さないことにする。それは,ここに採用した十四項目の単元に,どのような軽重をつけるかということは,児童の状態と,土地の状況とによって異なるのであるから,時間配当は各指導者の研究にまかせた方がよいと思ったからである。時間の割合を,各指導者がきめる場合,第四学年まで参考として示しておいた割合や,従来国民学校で採用していた割合などは,一つの参考となるであろう。

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 描写材料

 水絵具・鉛筆を主とする。

(四) 指導方法──児童の活動

(五) 結果の考査

 「一対比較法」または「記述尺度法」によって考査する。

 例 水絵具使用練習結果の考査「記述尺度」

発色の鮮明さ

非常に鮮明

比較的鮮明

普   通

あまり鮮明でない

濁   る

混   色

非常にたくみ

た く み

普   通

拙   い

非常に拙い

筆 使 い

非常によい

よ   い

普   通

わ る い

非常にわるい

用具・材料の扱い方

大いによい

よ   い

普   通

わ る い

たいへんわるい

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 描写材料

 水絵具・鉛筆を主とし,毛筆・墨等を併せ用いる。

(四) 指導方法──児童の活動

(五) 結果の考査

 「一対比較法」または「記述尺度法」による。

 例 作画の考査「記述尺度」

題材の選定

大いに適切

適   切

普   通

不 適 切

非常に不適切

資料の集め方

適切なものを非常に豊富に集める

適切なものを豊富に集める

普   通

適切なものをあまり集められない

適切なものを集められない

構   想

独創的でとらえ所がよい

適   当

普   通

拙   い

非常に拙い

表   現

目立ってたくみ

た く み

普   通

拙   い

目立って拙い

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 指導方法──児童の活動

(四) 結果の考査

 「一対比較法」または次のような「記述尺度」による。

題材の選択

自分の力にぴったり合った適当なものを選ぶ

自分の力に合った適当なものを選ぶ

普   通

選択力が弱い

適当なものが選べない

観   察

非常に正しくて密

正しくて密

普   通

粗   雑

非常に粗雑

構   想

目立って創意に富み適当

創意に富み適当

普   通

創意に乏しく貧弱

目立って創意なく貧弱

表現技術

目立ってたくみ

た く み

普   通

拙   い

目立って拙い

 

(一) 指導目標

(二) 指導方法──児童の活動

(三) 結果の考査

 下記のような「記述尺度」による。

 感覚の考査は個々の色についても行う。

色の集め方

非常にたくさん集める

たくさん集める

普   通

集め方が少ない

集め方が非常に少ない

混   色

非常によい色を多く作る

よい色を作る

普   通

色が濁る

非常に色が濁る

整理の仕方

非常に系統だてて整理する

系統を立てて整理する

普   通

整理ができない

ほとんど整理ができない

色に対する感覚

非常に鋭敏

鋭   敏

普   通

鈍   感

非常に鈍感

 

(一) 指導目標

(二) 指導方法──児童の活動

(三) 結果の考査

 次のような「記述尺度」による。

形に対する理解

非常によく形を分解的に見ることができる

よく形を分解的に見ることができる

普   通

形を分解的に見る力が劣る

形を分解的に見ることができない

研究対象のとらえ方

適切なものを非常によくとらえる

適切なものをよくとらえる

普   通

どんなものを研究してよいかよくは解らない

どんなものを研究してよいか解らない

研究に対する熱意

非常にたくさん研究した

たくさん研究した

普   通

あまり研究しない

ほとんど研究しない

 

単元六 図   案

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 用具・材料

 水絵具・色紙・クレヨン・定木・ものさし・コンパス・など。

(四) 指導方法──児童の活動

(五) 結果の考査

 次のような「記述尺度」による。

適当な題目を見つけ出す力

適当な題目を非常によく見つけ出す

大体適当な題目を見つけ出す

普   通

題目を見つけ出す力に乏しい

題目を見つけ出す力がほとんどない

図案の構成

非常に独創的で巧み

独創的でたくみ

普   通

創意が乏しくて拙い

非常に創意に乏しくて拙い

表現技術

非常に手ぎわがよい

手ぎわがよい

普   通

不手ぎわ

非常に不手ぎわ

 

(一) 指導目潔

(二) 教 材

 木工教材で作る簡単な形のものの製図からはいり,身ぢかにある簡単な形をしたものの実測製図にも進ませる。

 方眼紙に,三角定木・ものさし・コンパスなどを用いて製図させると共に,手がきの製図もさせる。

(三) 指導方法──児童の活動

(四) 結果の考査

 下記のような「記述尺度」による。

図法の理解

非常によく理解する

よく理解する

普   通

理解が乏しい

解らない

描図の速度

極めて速い

速   い

普   通

遅   い

極めて遅い

図の正確度

極めて正確

正   確

普   通

不 正 確

極めて不正確

 図法の理解のみの考査をするには,どこかに誤りのある図を示して,正誤を判断させる「訂正法」を用いてもよい。

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 用具・材料

(四) 指導方法──児童の活動

(五) 結果の考査

 「一対比較法」によりまた次のような「記述尺度」を参考として,教材の性質如何によって,適当な尺度を作って考査する。

題目の選定

自分の力に合い役に立つ適当な題目を選ぶ

ほぼ適当な題目を選ぶ

普   通

題目を選ぶ力が劣る

題目を選ぶ力が大変劣る

製作計画

非常に独創的で周到

創意あり周到

普   通

創意乏しく粗雑

創意なく非常に粗雑

製作技術

非常にたくみ

た く み

普   通

拙   い

非常に拙い

工具・材料の扱い方

材料の扱い方非常に適当でよく工具の手入れをする

材料の扱い方適当で工具の手入れもよくする

普   通

材料の扱い方が拙く,工具もあまり大切にしない

材料の扱い方が非常に拙く工具をなげやりにする

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 用具・材料

(四) 指導方法──児童の活動

(五) 結果の考査

 「一対比較法」また次のような「記述尺度」による。

製作題目の選定

非常によく適当なものを選ぶ

よく適当なものを選ぶ

普   通

あまり適当なものが選べない

自分では選べない

製作計画

極めて独創的で周到

独創的で創意あり周到

普   通

創意乏しく粗雑

極めて創意なく非常に粗雑

製作技術

非常にたくみ

た く み

普   通

拙   い

非常に拙い

 

(一) 指導目標

(二) 教 材

 女児には,編み物の初歩,やさしい袋物,簡単な縫いとりやししゅう。その他飾りに使う造花,縫いぐるみ人形,動物のおもちゃなどの中から,土地の状況と,児童の希望により,適宜に採用する。

 男児には,ボタンつけ,名札つけ,くつ下の修理,その他一針ぬきの縫い方で作れる簡単な必要品などの中から,児童の生活上必要な教材をとる。

(三) 指導方法──児童の活動

 児童の活動は,題目の決定・立案計画・製作・反省・批評等他の製作教材に準ずる。

(四) 結果の考査

 「一対比較法」により,また次のような「記述尺度」による。

材料の利用

非常にうまい

う ま い

普   通

拙   い

非常に拙い

手 ぎ わ

非常によい

よ   い

普   通

拙   い

非常に拙い

美的趣味性

極めて高い

高   い

普   通

低   い

極めて低い

工夫創作力

目立ってよく工夫する

よく工夫する

普   通

工夫しない

目立って工夫しない

 

(一) 指導目標

 第三四学年に準じ程度を高める。

(二) 指導方法──児童の活動

(三) 結果の考査

 第四学年に準じて行う。

 

(一) 指導目標

 第二三四学年に準じ程度を高める。

(二) 指導方法──児童の活動

 第四学年に準ずる。

(三) 結果の考査

 第四学年に準じて行う。

 

(一) 指導目標

(二) 教材例

(三) 指導方法──児童の活動

(四) 結果の考査

 次のような「記述尺度」によって考査する。

工具・備品の性質の理解

非常によく理解する

理解する

普   通

あまり理解しない

理解しない

工具・備品の扱い方

極めてたくみ

ていねいでたくみ

普   通

そまつに扱う

乱暴に扱う

 

(一) 指導目標

 第三四学年に準じ程度を高める。

(二) 指導方法──児童の活動

(三) 結果の考査

 「並立比較法」「順位評価法」などを,鑑賞する物に応じて適宜採用する。