第2章 ねらい及び内容

 

 この章に示すねらいは,幼稚部における教育において育みたい資質・能力を幼児の生活する姿から捉えたものであり,内容は,ねらいを達成するために指導する事項である。各領域は,これらを幼児の発達の側面から,心身の健康に関する領域「健康」,人との関わりに関する領域「人間関係」,身近な環境との関わりに関する領域「環境」,言葉の獲得に関する領域「言葉」及び感性と表現に関する領域「表現」としてまとめ,また,幼児の障害に対応する側面から,その障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服に関する領域「自立活動」としてまとめ,示したものである。内容の取扱いは,幼児の発達を踏まえた指導を行うに当たって留意すべき事項である。

 各領域に示すねらいは,幼稚部における生活の全体を通じ,幼児が様々な体験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうものであること,内容は,幼児が環境に関わって展開する具体的な活動を通して総合的に指導されるものであることに留意しなければならない。ただし,自立活動については,個々の幼児の障害の状態や特性及び発達の程度等に応じて,他の各領域に示す内容との緊密な関連を図りながら,自立活動の内容に重点を置いた指導を行うことについて配慮する必要がある。

 また,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が,ねらい及び内容に基づく活動全体を通して資質・能力が育まれている幼児の幼稚部修了時の具体的な姿であることを踏まえ,指導を行う際に考慮するものとする。

 なお,特に必要な場合には,各領域に示すねらいの趣旨に基づいて適切な,具体的な内容を工夫し,それを加えても差し支えないが,その場合には,それが第1章の第1に示す幼稚部における教育の基本を逸脱しないよう慎重に配慮する必要がある。

 

 健康,人間関係,環境,言葉及び表現

  健康,人間関係,環境,言葉及び表現のそれぞれのねらい,内容及び内容の取扱いについては,幼稚園教育要領第2章に示すねらい,内容及び内容の取扱いに準ずるものとするが,指導に当たっては,幼児の障害の状態や特性及び発達の程度等に十分配慮するものとする。

 

 自立活動

1 ねらい

  個々の幼児が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。

2 内 容

 (1) 健康の保持

  ア 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。

  イ 病気の状態の理解と生活管理に関すること。

  ウ 身体各部の状態の理解と養護に関すること。

  エ 障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること。

  オ 健康状態の維持・改善に関すること。

 (2) 心理的な安定

  ア 情緒の安定に関すること。

  イ 状況の理解と変化への対応に関すること。

  ウ 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。

 (3) 人間関係の形成

  ア 他者とのかかわりの基礎に関すること。

  イ 他者の意図や感情の理解に関すること。

  ウ 自己の理解と行動の調整に関すること。

  エ 集団への参加の基礎に関すること。

 (4) 環境の把握

  ア 保有する感覚の活用に関すること。

  イ 感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。

  ウ 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。

  エ 感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。

  オ 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。

 (5) 身体の動き

  ア 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。

  イ 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。

  ウ 日常生活に必要な基本動作に関すること。

  エ 身体の移動能力に関すること。

  オ 作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。

 (6) コミュニケーション

  ア コミュニケーションの基礎的能力に関すること。

  イ 言語の受容と表出に関すること。

  ウ 言語の形成と活用に関すること。

  エ コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。

  オ 状況に応じたコミュニケーションに関すること。

 

3 個別の指導計画の作成と内容の取扱い

 (1) 自立活動の指導に当たっては,個々の幼児の障害の状態や特性及び発達の程度等の的確な把握に基づき,指導すべき課題を明確にすることによって,指導のねらい及び指導内容を設定し,個別の指導計画を作成するものとする。その際,2に示す内容の中からそれぞれに必要とする項目を選定し,それらを相互に関連付け,具体的に指導内容を設定するものとすること。

 (2) 個別の指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとすること。

  ア 個々の幼児について,障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,生活や学習環境などの実態を的確に把握すること。

  イ 幼児の実態把握に基づいて得られた指導すべき課題相互の関連を検討すること。その際,これまでの学習状況や将来の可能性を見通しながら,長期的及び短期的な観点から指導のねらいを設定し,それらを達成するために必要な指導内容を段階的に取り上げること。

  ウ 具体的な指導内容を設定する際には,以下の点を考慮すること。

   (ア) 幼児が,興味をもって主体的に取り組み,成就感を味わうとともに自己を肯定的に捉えることができるような指導内容を取り上げること。

   (イ) 個々の幼児が,発達の遅れている側面を補うために,発達の進んでいる側面を更に伸ばすような指導内容を取り上げること。

   (ウ) 幼児が意欲的に感じ取ろうとしたり,気が付いたり,表現したりすることができるような指導内容を取り上げること。

  エ 幼児の学習状況や結果を適切に評価し,個別の指導計画や具体的な指導の改善に生かすよう努めること。

  オ 各領域におけるねらい及び内容と密接な関連を保つように指導内容の設定を工夫し,計画的,組織的に指導が行われるようにすること。

 (3) 自立活動の時間を設けて指導する場合は,専門的な知識や技能を有する教師を中心として,全教師の協力の下に効果的に行われるようにすること。

 (4) 幼児の障害の状態等により,必要に応じて,専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして,適切な指導ができるようにすること。

 (5) 自立活動の指導の成果が就学先等でも生かされるように,個別の教育支援計画等を活用して関係機関等との連携を図るものとすること。