第3章 特別の教科 道徳

 

第1 目 標

 第1章総則の第1の2の(2) に示す道徳教育の目標に基づき,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる。

 

第2 内 容

 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要である道徳科においては,以下に示す項目について扱う。

A 主として自分自身に関すること

 [自主,自律,自由と責任]

   自律の精神を重んじ,自主的に考え,判断し,誠実に実行してその結果に責任をもつこと。

 [節度,節制]

   望ましい生活習慣を身に付け,心身の健康の増進を図り,節度を守り節制に心掛け,安全で調和のある生活をすること。

 [向上心,個性の伸長]

   自己を見つめ,自己の向上を図るとともに,個性を伸ばして充実した生き方を追求すること。

 [希望と勇気,克己と強い意志]

   より高い目標を設定し,その達成を目指し,希望と勇気をもち,困難や失敗を乗り越えて着実にやり遂げること。

 [真理の探究,創造]

   真実を大切にし,真理を探究して新しいものを生み出そうと努めること。

B 主として人との関わりに関すること

 [思いやり,感謝]

   思いやりの心をもって人と接するとともに,家族などの支えや多くの人々の善意により日々の生活や現在の自分があることに感謝し,進んでそれに応え,人間愛の精神を深めること。

 [礼儀]

   礼儀の意義を理解し,時と場に応じた適切な言動をとること。

 [友情,信頼]

   友情の尊さを理解して心から信頼できる友達をもち,互いに励まし合い,高め合うとともに,異性についての理解を深め,悩みや葛藤も経験しながら人間関係を深めていくこと。

 [相互理解,寛容]

   自分の考えや意見を相手に伝えるとともに,それぞれの個性や立場を尊重し,いろいろなものの見方や考え方があることを理解し,寛容の心をもって謙虚に他に学び,自らを高めていくこと。

C 主として集団や社会との関わりに関すること

 [遵法精神,公徳心]

   法やきまりの意義を理解し,それらを進んで守るとともに,そのよりよい在り方について考え,自他の権利を大切にし,義務を果たして,規律ある安定した社会の実現に努めること。

 [公正,公平,社会正義]

   正義と公正さを重んじ,誰に対しても公平に接し,差別や偏見のない社会の実現に努めること。

 [社会参画,公共の精神]

   社会参画の意識と社会連帯の自覚を高め,公共の精神をもってよりよい社会の実現に努めること。

 [勤労]

   勤労の尊さや意義を理解し,将来の生き方について考えを深め,勤労を通じて社会に貢献すること。

 [家族愛,家庭生活の充実]

   父母,祖父母を敬愛し,家族の一員としての自覚をもって充実した家庭生活を築くこと。

 [よりよい学校生活,集団生活の充実]

   教師や学校の人々を敬愛し,学級や学校の一員としての自覚をもち,協力し合ってよりよい校風をつくるとともに,様々な集団の意義や集団の中での自分の役割と責任を自覚して集団生活の充実に努めること。

 [郷土の伝統と文化の尊重,郷土を愛する態度]

   郷土の伝統と文化を大切にし,社会に尽くした先人や高齢者に尊敬の念を深め,地域社会の一員としての自覚をもって郷土を愛し,進んで郷土の発展に努めること。

 [我が国の伝統と文化の尊重,国を愛する態度]

   優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献するとともに,日本人としての自覚をもって国を愛し,国家及び社会の形成者として,その発展に努めること。

 [国際理解,国際貢献]

   世界の中の日本人としての自覚をもち,他国を尊重し,国際的視野に立って,世界の平和と人類の発展に寄与すること。

D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること

 [生命の尊さ]

   生命の尊さについて,その連続性や有限性なども含めて理解し,かけがえのない生命を尊重すること。

 [自然愛護]

   自然の崇高さを知り,自然環境を大切にすることの意義を理解し,進んで自然の愛護に努めること。

 [感動,畏敬の念]

   美しいものや気高いものに感動する心をもち,人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深めること。

 [よりよく生きる喜び]

   人間には自らの弱さや醜さを克服する強さや気高く生きようとする心があることを理解し,人間として生きることに喜びを見いだすこと。

 

第3 指導計画の作成と内容の取扱い

1 各学校においては,道徳教育の全体計画に基づき,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動との関連を考慮しながら,道徳科の年間指導計画を作成するものとする。なお,作成に当たっては,第2に示す内容項目について,各学年において全て取り上げることとする。その際,生徒や学校の実態に応じ,3学年間を見通した重点的な指導や内容項目間の関連を密にした指導,一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を行うものとする。

2 第2の内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。

 (1)学級担任の教師が行うことを原則とするが,校長や教頭などの参加,他の教師との協力的な指導などについて工夫し,道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実すること。

 (2)道徳科が学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要としての役割を果たすことができるよう,計画的・発展的な指導を行うこと。特に,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育としては取り扱う機会が十分でない内容項目に関わる指導を補うことや,生徒や学校の実態等を踏まえて指導をより一層深めること,内容項目の相互の関連を捉え直したり発展させたりすることに留意すること。

 (3)生徒が自ら道徳性を養う中で,自らを振り返って成長を実感したり,これからの課題や目標を見付けたりすることができるよう工夫すること。その際,道徳性を養うことの意義について,生徒自らが考え,理解し,主体的に学習に取り組むことができるようにすること。また,発達の段階を考慮し,人間としての弱さを認めながら,それを乗り越えてよりよく生きようとすることのよさについて,教師が生徒と共に考える姿勢を大切にすること。

 (4)生徒が多様な感じ方や考え方に接する中で,考えを深め,判断し,表現する力などを育むことができるよう,自分の考えを基に討論したり書いたりするなどの言語活動を充実すること。その際,様々な価値観について多面的・多角的な視点から振り返って考える機会を設けるとともに,生徒が多様な見方や考え方に接しながら,更に新しい見方や考え方を生み出していくことができるよう留意すること。

 (5)生徒の発達の段階や特性等を考慮し,指導のねらいに即して,問題解決的な学習,道徳的行為に関する体験的な学習等を適切に取り入れるなど,指導方法を工夫すること。その際,それらの活動を通じて学んだ内容の意義などについて考えることができるようにすること。また,特別活動等における多様な実践活動や体験活動も道徳科の授業に生かすようにすること。

 (6)生徒の発達の段階や特性等を考慮し,第2に示す内容との関連を踏まえつつ,情報モラルに関する指導を充実すること。また,例えば,科学技術の発展と生命倫理との関係や社会の持続可能な発展などの現代的な課題の取扱いにも留意し,身近な社会的課題を自分との関係において考え,その解決に向けて取り組もうとする意欲や態度を育てるよう努めること。なお,多様な見方や考え方のできる事柄について,特定の見方や考え方に偏った指導を行うことのないようにすること。

 (7)道徳科の授業を公開したり,授業の実施や地域教材の開発や活用などに家庭や地域の人々,各分野の専門家等の積極的な参加や協力を得たりするなど,家庭や地域社会との共通理解を深め,相互の連携を図ること。

3 教材については,次の事項に留意するものとする。

 (1)生徒の発達の段階や特性,地域の実情等を考慮し,多様な教材の活用に努めること。特に,生命の尊厳,社会参画,自然,伝統と文化,先人の伝記,スポーツ,情報化への対応等の現代的な課題などを題材とし,生徒が問題意識をもって多面的・多角的に考えたり,感動を覚えたりするような充実した教材の開発や活用を行うこと。

 (2)教材については,教育基本法や学校教育法その他の法令に従い,次の観点に照らし適切と判断されるものであること。

  ア 生徒の発達の段階に即し,ねらいを達成するのにふさわしいものであること。

  イ 人間尊重の精神にかなうものであって,悩みや葛藤等の心の揺れ,人間関係の理解等の課題も含め,生徒が深く考えることができ,人間としてよりよく生きる喜びや勇気を与えられるものであること。

  ウ 多様な見方や考え方のできる事柄を取り扱う場合には,特定の見方や考え方に偏った取扱いがなされていないものであること。

4 生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要がある。ただし,数値などによる評価は行わないものとする。