第3章 指導計画作成上の留意事項
幼稚部における教育は,幼児が自ら意欲をもって環境とかかわることによりつくり出される具体的な活動を通して,その目標の達成を図るものである。
学校においてはこのことを踏まえ,幼児期にふさわしい生活が展開され,適切な指導が行われるよう,次の事項に留意して調和のとれた組織的,発展的な指導計画を作成し,幼児の活動に沿った柔軟な指導を行わなければならない。
1 一般的な留意事項
(2) 指導計画作成に当たっては,次に示すところにより,具体的なねらい及び内容を明確に設定し,適切な環境を構成することなどにより活動が選択・展開されるようにすること。
イ 環境は具体的なねらいを達成するために適切なものとなるように構成し,幼児が自らその環境にかかわることにより様々な活動を展開しつつ必要な体験を得られるようにすること。その際,幼児の生活する姿や発想を大切にし,常にその環境が適切なものとなるようにすること。
ウ 幼児の行う具体的な活動は,生活の流れの中で様々に変化するものであることに留意し,幼児が望ましい方向に向かって自ら活動を展開していくことができるよう必要な援助をすること。
その際,幼児の実態及び幼児を取り巻く状況の変化などに即して指導の過程についての反省や評価を適切に行い,常に指導計画の改善を図ること。
(3) 自立活動の指導に当たっては,次の事項に配慮すること。
イ 自立活動の時間を設けて指導する場合は,専門的な知識や技能を有する教師を中心として,全教師の協力の下に効果的に行われるようにすること。
ウ 幼児の障害の状態により,必要に応じて,専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして,適切な指導ができるようにすること。
(4) 幼児の生活は,入学当初の一人一人の遊びや教師との触れ合いを通して学校生活に親しみ,安定していく時期から,やがて友達同士で目的をもって学校生活を展開し,深めていく時期などに至るまでの過程を様々に経ながら広げられていくものであることを考慮し,活動がそれぞれの時期にふさわしく展開されるようにすること。特に,3歳児の入学については,家庭との連携を緊密にし,生活のリズムや安全面に十分配慮すること。
(5) 長期的に発達を見通した年,学期,月などにわたる指導計画やこれとの関連を保ちながらより具体的な幼児の生活に即した週,日などの指導計画を作成し,適切な指導が行われるようにすること。特に,週,日などの指導計画については,幼児の障害の状態や生活のリズム,幼児を取り巻く環境等に配慮し,幼児の意識や興味の連続性のある活動が相互に関連して幼稚部における生活の自然な流れの中に組み込まれるようにすること。
(6) 幼児の行う活動は,個人,グループ,学級全体などで多様に展開されるものであるが,いずれの場合にも,学校全体の教師による協力体制をつくりながら,一人一人の幼児が興味や欲求を十分に満足させるよう適切な援助を行うようにすること。
(7) 幼児の主体的な活動を促すためには,教師が多様なかかわりをもつことが重要であることを踏まえ,教師は,理解者,共同作業者など様々な役割を果たし,幼児の発達に必要な豊かな体験が得られるよう,活動の場面に応じて,適切な指導を行うようにすること。
(8) 幼児の生活は,家庭を基盤として地域社会を通じて次第に広がりをもつものであることに留意し,家庭との連携を十分に図るなど,学校生活が家庭や地域社会と連続性を保ちつつ展開されるようにすること。その際,地域の自然,人材,行事や公共施設などを積極的に活用し,幼児が豊かな生活体験を得られるように工夫すること。
(9) 各学校においては,幼稚部における教育が,小学部以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し,幼児期にふさわしい生活を通して,創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。
(10) 幼児の経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊かな人間性をはぐくむために,学校生活全体を通じて,幼稚園の幼児及び地域の人々などと活動を共にする機会を積極的に設けるようにすること。
(11) 学校医等との連絡を密にし,幼児の障害の状態に応じた保健及び安全に十分留意すること。
(12) 児童福祉施設及び医療機関等との連携を密にし,指導の効果をあげるよう努めること。
2 特に留意する事項
(2) 行事の指導に当たっては,幼稚部における生活の自然な流れの中で生活に変化や潤いを与え,幼児が主体的に楽しく活動できるようにすること。なお,それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し,適切なものを精選し,幼児の負担にならないようにすること。
(3) 知的発達に遅れのある幼児の指導に当たっては,その障害の状態等に応じて具体的な内容の設定を工夫すること。
(4) 障害を併せ有する幼児の指導に当たっては,専門機関等との連携に特に配慮し,全人的な発達を促すようにすること。また,個々の幼児の実態を的確に把握し,個別の指導計画を作成すること。
(5) 幼稚部の運営に当たっては,地域の実態や家庭の要請等により,障害のある乳幼児やその保護者に対して早期からの教育相談を行うなど,各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること。
(6) 以上のほか,次の事項に留意すること。
イ 聾(ろう)学校においては,早期からの教育相談との関連を図り,保有する聴覚などを十分に活用して言葉の習得と概念の形成を図る指導を進めること。また,言葉を用いて人とのかかわりを深めたり,日常生活に必要な知識を広げたりする態度を育てること。
ウ 知的障害者を教育する養護学校においては,幼児の活動内容や環境の設定を創意工夫し,活動への意欲を高めて,発達を促すようにすること。また,ゆとりをもって活動に取り組めるように配慮するとともに,周囲の状況に応じて安全に行動できるようにすること。
エ 肢体不自由者を教育する養護学校においては,幼児の身体の動きや健康の状態等に応じ,可能な限り体験的な活動を通して経験を広めるようにすること。また,幼児が興味や関心をもって,進んで身体を動かそうとするような環境を創意工夫すること。
オ 病弱者を教育する養護学校においては,幼児の病気の状態等を十分に考慮し,負担過重にならない範囲で,様々な活動が展開できるようにすること。また,健康状態の維持・改善に必要な生活習慣を身に付けることができるようにすること。