学習指導要領 人文地理編(1)

 

(試案)

 

昭和二十二年度

 

文部省
 
 

目   録

単元I 世界の各地はいかに異なっているか
単元Ⅱ 環境と人間との間にはどんな交渉があるか
単元Ⅲ 人間の住居や集落は,どんな所に,どういうふうにできるか
単元Ⅳ われわれは食糧をいかにして得ているか

時 間 表

 下にかかげる表は1年を30週,1週5時間(1時間50分)として,室内作業・野外作業を含めるが,最終の試験時間をとってない。

           甲  案         乙  案

単元  章    時間数   比率    時間数  比率

1   1      4     3      3    2

2   2−3    10     6      6    4

3   4−6    20     13     22    15

4   7−13    35     23     38    25

5   14−16   16     11     19    13

6   17−19   16     11     20    13

7   20−21   20     13     22    15

8   22−29   29/150   20/100   20/150  13/100

乙案は単元第3−第7の具体的研究の部分が多く,実業的課程に適する。

 

教授者への希望〔学習指導要領〕

 1.人文地理の課程は三部に分けられてある。第一部では環境の意義を明らかにし,ここに人文地理の成立の根拠を求めた。第二部では人間の社会生活における主要事象として,居住・食糧・衣料・動力・燃料・器具・機械などについて記述した。ここでは事実と現状とをあげて,世界の人口・生活様式・産業・交通・貿易などにも触れるとともに,それを通して人文地理の法則と秩序とを示そうとした。第三部では世界を幾つかの領域に区分して,その特徴をつかみ,個別的な地誌にかえることにした。

 2.この教科書の記述は必ずしも普遍的,包括的ではない。制限された紙面のうちで,すべてのものを盛ろうとする百科辞典的な方法は一擲した。—つの事柄について十分に研究し,その問題を解くかぎを与えられれば,あとは年鑑類などからでも地理事象に対する正しい解釈が得られるであろう。固定した知識でなく,応用できる考え方が与えられねばならぬ。

 3.人文地理の取り扱いに関し特に希望するところは,社会科学としての内容を与えることである。単なる事実の排列に終ることはなく,これらの事実が社会的現象として常に他の現象と関連していること,歴史的な背景をもって今日の現象が生起していること,四囲の状況によって常に変化しつつあることなどは,特に注意せられたい。

 4.学習活動の例は種々のものを含んでいる。文献その他の材料を集めねばならぬものもあれば,野外作業や見学を必要とするものもある。また都市では不可能なものもあれば,農村では手のつけようのないものもあるだろう。これらを一つの例として,自由に取捨し創作して,教室を経営してゆかれたい。教科書には質問と研究課題とを加えてある。質問は大体書中の事項を整理するためであり,研究課題は文献または実態の調査によって理解すべきものである。実態的研究は校外の指導,または休暇などを利用するもよく,社会生活または社会活動について広い視野を与えるようにせられたい。

 5.本書には若干の参考書をあげたが,容易に入手できる単行本に限り,雑誌などの論文はのせなかった。それらの論文を読み,かつ研究することは,最も望ましいことであるが,手に入れるのがむずかしいと思ったからである。また生徒にも参考書について研究せしめることは最上の方法であるが,わが国の図書館の現状では望み得ない。各自入手し得る範囲において,手近なものを利用せられたい。学校図書館には地図帳と統計書・年鑑類は是非そなえられたい。これは他の学科にも共通に利用できるであろう。

 6.日本あるいは世界についての統計書として,さしあたり次のごときものが利用できるであろう。

 統計は,この数年の戦乱によって変動を示しているが,特に戦時経済を研究する意図でなければ,必ずしも最新のものたるを要しない。1938-40年ころのものでもよい。史的な変化をみるためには,1909−13,1919−21,1927−29,1934−36などが適当であろう。